– Behind The Scenes『大人になること』:ブックデザインは暁さん。 

 担当編集者Sさんがご自身のXアカウントに「色校が出た」と添えて画像をあげていた。表紙カバーに使う紙の種類は聞いているけれど、実物の紙見本を見ていないので、刷り上がるとどんな感じになるのか、著者である私もワクワクしている。

『大人になること』のブックデザインは佐々木暁さん。河出書房新社から出した私の前著二作『メモランダム』『私が好きなあなたの匂い』も暁さんによるもの――と書くより、いまはノーベル賞作家ハン・ガンの日本版の装丁を手掛けているひと、と紹介したほうがわかりやすいか。
 暁さんの端正なデザインが好きなので、今回の本もお願いした。

 年が明けて最初の月曜日、神保町の喫茶店で暁さんとブックデザインの打ち合わせがあった。そのとき暁さんからお土産をいただいた。今年の干支、馬が描いてあるパッケージのお菓子。美味しかった。

 執筆途中の原稿が何本かあり、全編通して読めるようになるにはあと少しという状態だったので、その日は私が口頭で構成やテーマを暁さんに説明した。デザインまわりは編集者に一任する著者も多いと聞くが、『大人になること』は若干構成が複雑なので、複雑にしたいと言い張った私が責任をもって説明するべきだろうと思った。

 暁さんと会うのは本当に久しぶりで、最後に顔を合わせたのは十年ほど前、ライヴ会場でばったり、確かあれは八代亜紀さんのジャズアルバムリリース記念のコンサートではなかったか。場所は青山のBlueNoteだった気がするが、曖昧な記憶だから自信がない。間違えていたらごめんなさい、暁さん。

 暁さんはその頃と全然変わっていなくて、仙人みたいな風貌で私のプレゼンテーションをニコニコしながら聞いていた。ロン(とロンを抱っこしている私)の写真を使うのは私の中では決定事項だったので、その場で画像データを渡し、あとは暁さんのアイデアでまとめていただくことにした。

 写真について少し書くと、あれは知人が撮ったもの。私に抱っこされているロンに、何の気なしにiPhoneを向けた偶然のショットだ。
 その写真をもらったとき、次の本の表紙はこれしかない!と思った。鍵穴に鍵がカチッとはまったような感覚があって、その鍵がそこから先の扉を開いてくれた。単行本の制作はスタートしたばかりだったけど、これから作る本の全体像がはっきりと見えて、あとは書くだけとなったのだ。

 五月に入り、まだかな、まだかな、と首を長くして待っていた表紙カバー案が暁さんから届いた。二案用意してくださって、ひとつは前著二作と通底する雰囲気を持つデザイン。もうひとつが採用となったデザインだ。このテキストを読んでいる方なら、書影として既に目にされていることだろう。
 ちなみに、このデザインを推したのは私だけではない。編集者Sさん、私のオフィスのスタッフ、満場一致で決まった。ひとつめの案も良かったけれど、今回、かつての私なら書くことのなかったテーマに挑戦しているので、表紙もいままでとは方向性の違うものにしたかった。冒険の物語でもあるので、表紙でも冒険してみたかった、そんな想いもある。

 表紙を見て、ページめくり、本文を読む。読み終えて、本を閉じ、改めて表紙を眺める。そのときこのブックデザインにどんな印象を持たれるだろう、機会があれば読了した方々に訊いてみたいものだ。「わかる!」と言っていただけたらこれほど嬉しいことはないのだが。

長谷部千彩

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